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 火曜日

大雨の後のプール。
当然、そんな天候だった後でプールに来る物好きはおらず、
辺りは静まり返っていた。

月曜日に警備員が来たのは 8 時ころ。
だが事件当日は7時くらいだったので、7 時ちょっと前からプールサイドに待機することにした。

プールサイドの奥の方、見えにくいところに隠れて、ノート PC を持ち込んで月曜日の報告書を作成していた。
時間は有意義に使わねば。

暗くて本を読むことはできないけど、ノート PC なら、バックライトがあるから
むしろ日中の外部よりもディスプレイが見えやすい。

7時半を回ったころ、不意に金属のジャラジャラという音がした。

――ヤツだ!

緊張が走った。
私はフェンスの外から見えないように、壁の陰に隠れた。
しかしその音はフェンスの外をうろうろするだけで一向に中に入ってこようとしない。

「今日は人もいないしちょっと見回って帰っちゃえ」
とかって帰っちゃったら、せっかくの待機が水の泡である。

私はすばやくプールエリアの外に出ると、警備員の車が止めてあるであろう場所へと向かった。
しかしそこに警備車はなく、付近を見渡しても発見することができなかった。

そしてまたジャラジャラという鍵の音。
鼓動が早まる。

―― 一体どこなんだ!?

私は辺りを見回した。
そして、犬をつれて近づいてくる人物を発見。
しかし、よくみると女の人ではないか。

ジャラジャラ

金属の音は首輪の音!?
もぉぉう、まぎらわしいっ!

がっかりしたようなほっとしたような気持ちで、私は持ち場(!?)に戻った。
その日はどちらにしろ、ヤツが来たら、ヤツの前に出没する予定なので、ジャグジー前のベンチに腰を下ろし、
ノート PC を開いた。
それからさらに 30 分ほど経ったころ、再び金属がジャラジャラする音が聞こえ、
さらに鉄格子の門を開く音がした。

――ま ち が い な い!今度こそヤツだ!

すばやくノート PC を閉じ、バッグにしまうと、おもむろに身構えた。
入り口近くのトイレをチェックし、やがてプールサイドに入ってくると、座っている私に気づいた。
こちらに近づいてくるのを見計らって

「こんばんは。カメラ見つけました?」
と、問いかけ、近づいていった。
嵐の後のプール、ライトアップされた水面が揺れた。

「いや、しらないしみなかった」
と、警備員。

「おねがいします。みつけてください。」
「もう時間が経っているから無理だ。何も見なかった。」
「あのバッテリーには特殊なチャージャーが必要で、チャージャーは私が持ってるし、
 シリアル番号は私が持ってるし、誰かが取ったところで十分に使えないのです。
 だからまた戻すかもしれない。そのときに見つけたら教えてほしい。見つけたら礼金を差し上げます。」

「俺は何もしらない」
「あなたが知らないのはわかります、でも使えないから戻すかもしれない、
  だから今後見つけたら教えてください。あれは形見なんです。」
半叫びになってそう言うと、ようやく、少し協力する姿勢を見せた。

「どんなカメラなんだ?」

ここにきてようやくこういう普通の質問が出たわけよね。

「シルバーで、タバコの箱くらいの大きさで、ここに載っているようなやつです。」
と、『発見したらご一報を』のビラを指差し、そばに行った。
「わかってる。見た。」

――質問するから言ってるのに;

そうか、最初にカメラの形状について質問しなかったのは、
事前にビラを読んでたからあえて、質問しなかったのかもしれない。

「これは Kodak か?」
「いえ、PENTAX です。」
「Kodak か?」
「PENTAX です」
「この形は Kodak にみえる」
「いえ、PENTAX なんです」

――PENTAX だっつってんのに;
  このひと、実はアタマよわいんじゃなかろか。。。

「そんなに大事なものなら、置き忘れるべきじゃない」
「わかってます!でもなくしてしまったんです、だからこうして頼んでるんです!」
「俺は見なかった」
「だから、今後発見したら教えて下さい。とったひとが戻すかもしれない、そう信じてます。」

「もう遅い、探すならすぐすべきだ」
「探しました!でも電話しても転送され転送され、結局つながらず、だからこうして来てきいてるんじゃないですか!」
「俺は何も見なかった。誰かが持っていったんだ。」

「でも気づいてすぐ戻ったんです、その間にいた人は、・・・3人・・・」
「その人にきけばいいじゃないか。俺は知らない。」
「ききました。」
「なんていってたんだ?」

実際のところ、老夫婦にはその後会ってないし、家族には当日きいたけど知らないっていってたし、
でもそれをいったら、また「俺は知らない」って言われそうだったので適当にかわした。

「誰が取ったのか知ってるのか?」
「・・・・・」
なんて答えるべきか、迷ってだまっていると

「誰が取ったのか知ってるのか?」
と再び問いかけた。私は質問にははっきり答えずに言った。
「・・・取った人が戻すかもしれない、だから、発見したら教えてください。」

「名前は?電話番号は?」
「昨日渡した紙に書いたとおりです」
「あぁ、そこ(ビラ)に書いてあるか。」

「どこにすんでるんだ?」
「ここのちかくです。」
「BXXXか?」
(ちなみにこのプールは BXXX の住人と、CXXX の住人が使える)

「いえ、CXXXです。」
「BXXX か?」
「いえ、CXXX です。」
「BXXX か?」
「いえ、CXXX です。」

――CXXX だっつってんのに;
   やっぱしこのひと、アタマよわいんじゃなかろか。。。

3度目にしてようやく
「あぁ、CXXX か。CXXX のどこだ?」

このひと、部屋番号まで聞きだすつもり!?
部屋番号は彼に必要な情報ではないので、逆に

「名前教えていただけますか?セキュリティーガードオフィスの電話番号は?」
というと、急に立ち去ろうとした。

「俺はここに長くいるわけには行かない。俺にはやるべき仕事がいっぱいあるんだ。」
「わかります。オフィスの電話番号、おしえてください」
「そこにかければいい、おれはしらない、おれはただ雇われているだけなんだ」

そう言って入り口に掲示してある電話番号を指差した。
例の、何度かけてもつながらず、つながったと思ったら転送されまくって、いろんなところにかけた挙句
最初の番号を教えられた、あの忌まわしき番号である。

「この番号にかけてもつながらないから言ってるんです。」
 プールエリアから立ち去ろうとするやつに向かって再び
「お名前いただけますか?」
と呼びかけると、一瞬ぼそっと mike とかなんとか聞こえないくらいに言ったものの
(こういう名前って大抵ニックネームなので本名が知りたかったので)
聞きなおすとかたくなに拒絶し、

「俺は自分の名前が嫌いなんだ」
だのいいはじめ、手帳を出して、書いてと頼むと
「俺は自分の名前を人に教えるのが嫌いだ」
だの言って、決して名前を明かそうとはしなかった。

「私はただ、この番号に電話してもつながらないから、コンタクトをとりたいだけなんです」
半泣きチックになって叫ぶと
「俺は知らない、何も見なかった。」
「どうしてですか!私は自分の名前教えたじゃないですか!あの番号にかけても転送されてつながらないんです!
  あなたの同僚がもしかしたら知ってるかもしれない!だから聞いてるんです!」
「知らない、(同僚に)聞いてみたけど、知らない。俺は忙しいんだ。ここに長く留まるわけにはいかない。」
             ↑ぜったいきいてなさそー

そう言って、ヤツはプールエリアから外に出た。
私は後に続き、

「お願いです、見つけてください」
「俺は何も知らない」
「あなたが今何も知らないのはよくわかっています!でも、近い未来、見つけるかもしれない!
 そうなったら教えてほしいんです!見つけてくれたら礼金を差し上げます!」

いったいこの会話、何度繰り返しただろう。
食いつく私もしつこいけどさ、このひとも、
「あの日は何も見なかったけど、今後なにかわかったら教えるよ」
って言えばすむのにねぇ。

結局。さんざんこの会話を繰り返した挙句、悲壮に叫ぶ私に
「わかった。もしわかったら教える」
とようやく言った。

「ありがとうございます( ´_ゝ`)」
と安心したように言うと、何か言うべきかと思ったのか、
「・・・見つかるといいな」
はじめて人間らしい言葉をきいた。
「ありがとう」

こうして。
ようやくその日の戦いは幕を閉じたのである。
( ´ー`)フゥー...

多少会話の順序が違うところがあるかもしれないけど、だいたいこんなやりとりであった。

それにしても。
根本的になんか会話がへん(例えばメーカーについて、Kodak だと言い張ってみたりとか。
人の話きいてんのか!?ってかんじ)なので、(こういう場合はこういうはずみたいな)通常の推理が必ずしも当てはまらないのかもしれない、と思った。

例えば前日に、「そのカメラは誰の?」って 3 回も繰り返し聞いたのも、バカの一つ覚えみたいに、「俺は知らない」と繰り返すのも、普通に考えると極めてあやしいんだけど、ヤツにとってはもしかしたら普通の反応なのかもしれないのだ。

ともかく、悲壮な願いはアピールできた。
もしヤツがクロだった場合、ここまで迫られたら、少なからずともさすがに良心の呵責を感じるであろう。

もはや、こうなってくると意地である。
カメラ新しく買えばいいじゃんとか、価格がどうとか、そういう問題ではないのだ。
人のものを取っておいて、ぬくぬくと暮らす輩を野放しにして泣き寝入りをするのは、ユル(`Д´)センのじゃ
彼が真犯人かどうかの確たる証拠はないが、どちらにしろ、あの非協力的な態度は、反省する余地が十分にある。
しつこく言い寄って悪いことはあるまい。

ただし、殺されたりしたら大変である。
なにしろここはアメリカ。
今後は作戦を変更してアプローチしよう。
暴いてやる~暴いてやる~Ψ(`∀´)Ψワハハハハハ

つづく


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