ナビゲーション リンクのスキップTOP > STORY > 2. WHO AM I!?
 
    どれくらい経っただろう・・・。

「ビビンバとビーフ、どちらになさいますか?」

不意に女の人の麗しい声で我に返った。

「・・・ビビンバ!?」
何事かと思って思わず訊き返すと、

「ビビンバでございますね。」
と相手は答えかと理解したように、目の前に食べ物らしきものの入ったプレートを置いて去っていった。

――ん???なんだなんだ!?

辺りを見渡すと、藍色の座席、座席、座席・・・
左には中年のオジサン、右には小さな窓がついていて、硬い金属らしきものでできた羽根と、眼下に広がる雲が見渡せる。

これは・・・

――知ってるぞ!これは「飛行機」ってやつだ!

そう、あの泉から何度も見た。
僕らのようには、飛べない人間どもが、空に恋焦がれて作った機械。

――でも、なんでなんだ!?

最後に覚えているのは、SHU の叫び声と、水飛沫に水の泡、青っぽい光・・・。
これは夢なのか?

呆然としている僕を、隣のオジサンが
「食べないのか?」
と言わんばかりに一瞥する。

なんとなくつられて、となりのオジサンの見よう見まねで、ボウルにご飯を入れてかき混ぜて口に運んでみる。

「んま~。」

夢でも味がするんだぁ。
妙なことに感心しつつ、思わずぺろりとたいらげてしまった。

となりのオジサンは通りかかる女の人(きっとスッチーってぇやつに違いない)にやたらと熱心に話しかけている。スッチーもにこやかに応対している。しかし、

「また会えませんか?」
「帰りの飛行機ででもお会い出来たらよいですね。」

スッチーは軽ぅくかわすと、華やかに微笑んで去っていった。

――ぷぷぷ。サービス業だから仕事でやさしくしてるんだってばーねぇぇ。

と、思いかけたとき、足元にある茶色のバッグに気づいた。なんとなくそれを開けてみると、そこには手帳
、パスポート、眼鏡にカツラまで入っている。

――なんだこりゃ。

パスポートを開くと、「EDWARD KEITH」と書いてあり、ブラウンの髪に緑褐色の目をした男の写真がついている。この夢の中での名前らしい。

その後また眠りに落ちたのか落ちていないのか、

「当機はまもなくロサンゼルス空港に到着いたします。これより着陸態勢に入りますので座席、テーブルを
元の位置にお戻しになりシートベルトをおしめください。」

機内アナウンスの声で我に返った。
エンジン音がひときわ高くなり、高度を下げていく。ついで車輪が地面につくのが伝わってくる。妙にリア
ルな感触だなぁ、なんて思いつつ、ぼんやりと窓の外を見ていた。

飛行機から降りると、人の群れになんとなくついて行きつつ、入国カウンターもなんとなく通り過ぎたところで、段差につまずいてすっころんでしまった。
 

    「いてぇッ」

思わず声を上げて、その自分の声で気づく。
痛みを感じているという事実に。

――どういうことだ!?

不意に一抹の不安が胸をよぎる。
僕は立ち上がるのも忘れて、ためしに腕をつねってみた。

「つッ」

――まさか。
  そんなばかな。
  いいい、いや、そんなことがあるわけない。

顔をあげると、ステンレスの銀色の柱に映った男の顔。
パスポートの写真と同じ顔だ。

恐る恐る両腕を上げてみる。
その男も両腕を上げる。

今度は左右に揺れてみる。
その男も右左に揺れる。

ガ━━(゚Д゚;)━━━ン!!!!!?

男にはもちろん羽根もない。

――ま、まさか・・・

僕は不吉な予感いっぱいになりながら、自分の背中に手を伸ばす。
その予感は的中した。

ガ━━ΣΣ(゚Д゚;)━━ン!!!
――なななないっ!!
  あの麗しき羽根が!!

「うああぁぁぁぁ!!!」

僕は叫びながら男の映った柱に駆け寄った。
柱に映った男は顔をゆがめながらこぶしを振り上げている。

走馬灯のようによみがえる記憶の中で、僕の頭の中で、RYU の台詞がこだました。

「あんま覗きこみ過ぎて、足すべらすなよ。落っこちたら下界行きだぜ?」

――ゲカイイキダゼ――

「うそだぁぁぁああ!!!ふんぎゃぁぁぁ!!」

異変を聞きつけた空港警備員がばらばらと集まってくる。
「どうしました?」

「ないッ!ないッ!ここはいったいどこだよ!?」
「いったい何をなくしたんです?」

警備員がたしなめるように話しかけるが
かまわず僕は叫ぶ。

「どうやってもどるんだ!どうやって!!僕は違うんだ、この世界の住人なんかじゃないんだ!!戻してく
れ!*#$%&!?羽根はどこへやった!」

食いかかる僕に対し、警備員らは一瞬怪訝な顔で顔を見合わせると、一番屈強そうな男が、ずずいと前に出
てきた。

「ちょっと、そこまできてもらおうか」

と腕をつかむ。
どうも頭がおかしい人と勘違いされたらしい。
いや、実際おかしくなってたかもしれないが。

「おいっ、なにする!はなせよ!」

僕はそう叫んで強引に手を振りほどくと、人の流れていく方向に駆け出した。
 
「こらッまて!」

「こらッまて!」なんて言われたら、余計逃げるしかない!待つやつがいるか!

「おいっそいつをつかまえろ!!」

背後から叫ぶ警備員の声が追ってくる。

人を掻き分け、前方に黄色く光る「EXIT」の文字が見えた、と思ったところで、近くにいて騒ぎを聞きつけ
た、別の警備員が飛び掛ってきた。

「うわぁっ」
ガッシャ~ン!

 
僕はフェンスごと出迎えの人垣の中にモロに倒れこみ、あっという間に、あとから追ってきた警備員3人がかりで押さえ込まれてしまった。

「はなせー!はなせー!もどせー!もどしてくれー!!」
「おとなしくしろ!」

ジタバタする僕の目の前に、高そうなダークグレーのスーツを着た男が立ち止まった。

「Mr.KEITH ですね?」

応える前に、スーツの男は内ポケットからなにやら ID カードらしきものを警備員にちらりと見せた。
青い文字で、FBI ・・・?
警備員らが虚を衝かれたように動作を止める。

「彼は重要なお客人でね。」

男は落ち着き払った態度でそういうと、僕の手を取り立ち上がらせた。
何事か理解できないでいる警備員をそのままにして、男は僕を連れるとツカツカと表に止めてある車に向か
って歩いていく。

    「騒ぎは困りますよ、Mr.M 。」
「だから、僕は違うんだって!Mr.Mなんかじゃ・・・」

と僕が言い終わらないうちに、男はニヤリと笑って言った。

「なるほど。今は Mr.KEITH 以外の何者でもない、というわけですね。」

――おいおい、『なるほど』じゃないよ、勝手に納得するなー^^;

男は止めてある車の後部座席のドアを開けると、僕を座らせ、自分も乗り込んだ。車は音もなく滑り出す。

「Alen から何か聞いていますか?」
「だから聞くも何も・・・」

男は納得したようにうなずくと、

「では、到着したらお話しますよ。」

それっきり男は何も話さず、僕はどうしたらよいかわからず、ただただ、流れ行く景色に身を任せるしかな
かった。

いったい、これからどうなっちゃうんだろ・・・。

つづく。
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